ペンを持つ瞬間を心の穏やかさに:日常でできる書くマインドフルネス入門
忙しい日々の中で「書く」時間はどんな意味を持っていますか?
日々の生活の中で、私たちは様々なことを「書く」機会を持っています。仕事のタスクリスト、買い物メモ、子供への置き手紙、日記、あるいは頭の中のアイデアを書き出すメモなど、形式は様々です。これらの「書く」行為は、多くの場合、情報を整理したり、忘れないように記録したりするための実用的な目的で行われます。
しかし、忙しさに追われていると、こうした「書く」時間もつい慌ただしく済ませてしまったり、次にやるべきことのことで頭がいっぱいになりながら「ながら書き」をしてしまったりすることがあるかもしれません。もしかしたら、この「書く」という日常的な行動の中に、心のざわつきを落ち着け、自分自身と向き合うためのマインドフルな瞬間を見出すことができるとしたらどうでしょうか。
この記事では、普段何気なく行っている「書く」という行為を、心の穏やかさにつながるマインドフルネスの実践へと変える方法をご紹介します。特別な準備は不要です。いつものペンと紙、あるいはデジタルツールでも構いません。
「書くマインドフルネス(マインドフル・ライティング)」とは
「書くマインドフルネス」とは、書くという行為そのものや、書いている内容に意識を集中するマインドフルネスの実践法の一つです。評価や判断を加えることなく、ただ「今、ここに書いていること」に注意を向けます。
これは、完璧な文章を書くことでも、誰かに見せるためのものを書くことでもありません。ペンを握る手の感触、紙に触れる音、インクの匂い、文字が形作られていく様子など、書くという身体的な感覚に意識を向けたり、頭の中に浮かんだ思考や感情をそのまま紙に書き出すことで、それらを客観的に眺める練習をしたりします。
日常で試せる「書くマインドフルネス」の具体的な実践法
特別な時間や場所がなくても、日常の隙間時間で簡単に取り入れられる「書くマインドフルネス」の実践法をいくつかご紹介します。
実践法1:ジャーナリング(思考や感情の自由な書き出し)
これは「書くマインドフルネス」の代表的な方法の一つです。
- 準備: ノートや紙、そしてペンを用意します。デジタルツール(PCやスマホのメモアプリなど)でも構いません。
- 時間: 1分から数分といった短い時間で十分です。タイマーを使っても良いでしょう。
- 書く: 時間が始まったら、頭の中に浮かんでくること、心で感じていることを、そのまま紙に書き出していきます。思考が飛び飛びでも、まとまりがなくても構いません。「今、〇〇について考えている」「少しイライラしている感じがする」「〇〇したいと思っている」など、ありのままを言葉にします。
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ポイント: 書いている内容が良いか悪いか、正しいか間違っているかといった判断や評価を挟まないことが重要です。ただ流れてくるものを受け止め、書き出すことに集中します。誰かに見せるものではないので、正直な気持ちを書くことができます。
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なぜ効果があるか: 頭の中にある思考や感情を「外に出す」ことで、それらを少し離れたところから客観的に眺めることができるようになります。これにより、同じ思考や感情が頭の中でぐるぐる巡る状態から抜け出しやすくなります。また、自分が今何を感じ、何を考えているのかに気づくきっかけにもなります。
- 期待できる効果: ストレスや不安の軽減、思考の整理、感情の気づきと受け入れ。
実践法2:感覚や行動の描写
書くという行為そのものや、その時に体験している感覚に意識を向ける方法です。
- 準備: 同様に筆記用具やデジタルツールを用意します。
- 書く: ペンを握った時の指の感覚、ペンの重さ、紙の質感、ペン先が紙に触れる音、書いている時の手の動き、机の感触など、書く行為に関わる身体的な感覚や周囲の音、匂いなどを丁寧に描写してみます。あるいは、今見ているもの(目の前のコップ、窓の外の景色など)を五感を意識して描写するのも良いでしょう。
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ポイント: 描写する際は、「良い」「悪い」といった評価ではなく、「〜と感じる」「〜と聞こえる」「〜のように見える」といった具体的な感覚の言葉を使うようにします。
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なぜ効果があるか: 思考の内容ではなく、「今、ここ」で起こっている身体的な感覚や五感の情報に意識を集中することで、自然と雑念から離れ、現在にグラウンディングすることができます。
- 期待できる効果: 現在への集中力の向上、リラックス効果、五感への気づき。
日常のどんなシーンで活かせるか
これらの「書くマインドフルネス」は、忙しい日常の中の様々な隙間時間に取り入れることができます。
- 仕事の合間: タスクリストを作る前に、ペンと紙の感触に数秒意識を向け、書く行為そのものを丁寧に行ってみる。休憩時間に、頭に浮かんだ些細な考えや感情をノートに数行だけ書き出す。
- 家事や育児の合間: 子供が寝ている間の短い休憩時間、お茶を飲みながら、今感じていること(「少し疲れているな」「静かで穏やかな時間だな」など)をメモに書き出す。
- 通勤時間: 電車やバスの中で、今日あった出来事や見かけたものを五感を意識して描写してみる。スマホのメモ機能を使って、指の動きや画面に映る光、周囲の音に注意を向けながら入力してみる。
- 寝る前: 今日一日を振り返り、特に心に残った出来事や、その時に感じた感情を書き出す。良い出来事だけでなく、難しかったことやイライラしたことについても、「そう感じたんだな」と評価せず、ただ書き留めてみます。
- 待つ時間: 待ち合わせや列に並んでいる時など、手元にメモ帳があれば、その時の感覚や周囲の様子を少し書き留めてみる。
完璧を目指さないこと、そして継続のヒント
マインドフルネスは「完璧にやること」が目的ではありません。たとえ短い時間でも、たとえ数行だけでも、書くという行為を通して「今」に意識を向けようとしたそのこと自体が、心のゆとりにつながる第一歩です。
もし「書くことが思いつかない」「何も書く気がしない」という日があっても、全く問題ありません。無理に書こうとせず、その日は休むか、他の簡単なマインドフルネス(例えば、呼吸に注意を向けるなど)を試してみてください。また、手書きに抵抗がある場合は、PCやスマホのメモ機能を使うのも有効な代替案です。重要なのは、自分に合った形で、継続できる範囲で取り入れることです。
結び
ペンを持つ瞬間や、指で文字を打つ瞬間は、日常の中に無数に存在します。これらの何気ない時間を、少し意識的に使ってみることで、心のざわつきを落ち着かせ、自分自身とより深く繋がるマインドフルな時間に変えることができます。
今日から、あなたの「書く」時間を、心の穏やかさへの一歩として活用してみてはいかがでしょうか。完璧でなくて構いません。まずは短い時間から、気楽に始めてみてください。